ナイジェルは宇宙船の窓から「オービタル・フロンティア」に点在するステーションの数々を見つめている。太陽の光が、彼の狼のような笑みから覗く金歯に反射して、ギラギラと輝く。囚人輸送車の中では、騒がしい囚人たちが、悪名高いハンターのUrsusとFenrisが戦う様子のホログラムを見つめている。ナイジェルもその《かつての地球》の姿を映し出した映像に夢中だった。
投影機の光に包まれながら「俺の番ももうすぐだ」と思った。「こんなにパワフルな奴は俺以外にいるわけないからな」
すると、突然看守がホログラムの映像を消した。同時にナイジェルの夢も打ち砕かれた。「いいか、よく聞け。『シンジケート・ハンター』の実験は延期されることになった。お前らみたいなケダモノには別の居場所が待っている」
小惑星の青い輝きが見えてきた。船はこの工業化され尽くした小惑星に向かって傾き始めている。
「騙しやがったな!」ナイジェルは拳を握りしめた。
すると《蛇》のような風貌の男が、ナイジェルの顔すれすれまで一気に迫る。「ハンターになれるのは賢い奴だけだ。お前みたいな間抜けには到底無理な話さ」
ナイジェルもこの蛇男に詰め寄ろうとしたが、一人の女性が彼を抑える。「つまらん騒ぎを起こすな、坊や」この女性の名はジンクスだ。
船は広大な《スターフォール》加工工場の上空に降り立った。この場所がまもなく囚人たちの生活のすべてとなるのだ。「チクショウ!」「俺にチャンスをくれるって話だっただろうが!」とナイジェルは叫ぶ。
船が着陸すると、囚人たちの手錠が自動的に外れた。ジンクスは手のひらを伸ばし、若い男は周囲を見渡しながら、スターフォールの影響を受けないよう、オレンジ色の宇宙服のファスナーをしっかりと締めた。武装した警備員たちは囚人を工場の中へと誘導するが、ジンクスにはまだ躊躇があった。
「心配すんな、ジンクス」「お前、いつも言ってるじゃねえか『努力は必ず報われる』…だろ?」とナイジェルは言う。
「フン。この岩山からは絶対に逃げられないぜ、牛野郎」と蛇男が笑った。「誰一人としてな」
太陽の厳しい視線の下で、過酷な日々が何カ月も、何年も続いた。囚人たちはその間、必死に「スターフォール」を集め、運搬しなければならなかった。ある日、ナイジェルがキャニスターを貨物室に運んでいると、上の階の回廊部分に人の影が見えた。浮かび上がっているのは3人のシルエットだ。すぐさまナイジェルはキャニスターを装填し、メーター部分を叩いて、我こそがトップの成績を残しているとアピールしてみせた。彼はジンクスにニヤリと笑みを浮かべる。
「もう少しの辛抱だね、坊や」と彼女は返す。
しかし、ナイジェルは、ジンクスの顔に刻まれつつあった、しわの数々に気づく。どうやら、彼女は通常よりも早く年を取っているようだった。「頑張ろうぜ、ジンクス。奴らもすぐに俺たちの仕事ぶりに気づくはずだ」
その時、蛇男が近づいてこう言い放った。「この《お嬢さん》が動かなくなった時だけが、奴らが俺たちに《気づく》時だろうな。他の連中も自分が正しいと思う道を選んでいるのさ。自ら命を絶ってるってわけだ」
「コイツの言う通りだ」とジンクスは言い、ナイジェルを引き止めた。「最初から、若い男たちが勝ち残るゲームだったんだ」
「何言ってるんだ。俺たちにはお前が必要だ」とナイジェルは言う。「ジンクス、お前以外に誰が俺を正しい道に導いてくれるっていうんだ?」
「《お嬢さん》がいないとお前はただの無名の新人だよなあ、《チャンピオン》さんよう」と蛇男が嘲笑う。「コイツの指導がなきゃ、勝てねえくせにな」「この女がくたばった時にどう戦うのか、俺に見せてみろ!」
蛇男はハンマーで襲いかかったが、ナイジェルは滑り込んで男のみぞおちを殴る。二人の頭が接近した。近づきすぎだ。蛇男はナイジェルに頭突きを食らわせ、彼をふらつかせたが、一方のナイジェルは相手の足を払って倒し、殴りつけてとどめを刺した。ジンクスはナイジェルを引き離したが、ナイジェルは怒りに我を忘れ、「スターフォールタワー」の中に突っ込んでしまった。そして、激しく暴れ続けた結果、3人全員のスーツを破いてしまったのだ。キャニスターが破損し、周囲のスターフォールが彼らの体内に侵入し、3人は大量の放射線にさらされた。蛇男は数秒のうちに死んだ。そして、ジンクスはナイジェルの膝の上で、枯れた根のようにしおれていった。
「そんな馬鹿な!俺はなんてことを…」
警報が鳴り響き、生き残った囚人たちが散り散りになる中、ナイジェルは一人残された。彼は驚愕の表情で、自分の手を見つめた。その手は《一日》たりとも老化していなかった。その時、回廊部分の明かりが点灯し、女性の声が響いた。
「囚人871番、今からお前と話したいことがある」